ダイカストの世界に足を踏み入れると、「ハードスポット」という言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、その正体や影響について深く理解している方はまだまだ少ないかもしれません。
ハードスポットを分別すると、主に3種類に分けられます。
本記事では、ダイカスト製品の品質を左右する上記のような「ハードスポット」に焦点を当て、その基本から発生の原因、そして効果的な対策に至るまで、わかりやすく解説していきます。
ハードスポットの発生要因
ハードスポットの発生には、様々な要因があるが、以下の3つに大別されます。
- 溶湯の酸化物
- 金属間化合物
- 合金成分の偏析
それぞれについて、次項目で発生原因の追求と対策を行います!
【発生原因①】溶湯の酸化物
溶融合金元素の空気との反応によって、容易にアルミナ(Al2O3)やスピネル(Al2O3・MgO)等の酸化物が生じます。
また、溶湯と煉瓦とは、次の反応を行いアルミナ及びSiを生じると考えられる。これらの酸化物が原因のハードスポットがこの分類に属するものである。
4Al+3SiO2 → 2Al2O3+3Si
この反応によれば、溶融アルミニウムは煉瓦中のSiO2によって酸化され、一方SiO2は還元されて金属ケイ素になる。
上記によって、煉瓦中のSiO2が侵され、煉瓦が破損し金属中にその破片が混入する原因の1つとなる。
これらの酸化物の形成は、溶解炉が高温の場合ほど、増加する傾向があり、実際の操業に於いて、高温で長時間保持される場合に硬いα-Al2O3が生成される。
SEM BEI像でAlよりやや黒っぽく見えます。
【発生原因②】金属間化合物
金属間化合物によるハードスポットの生成に関係する元素としては、Si、Fe、Mnが考えられます。
その中でも特にFeの挙動に起因するところが多く、ほとんど全てK4(Al4FeSi2)、K5(Al4Fe2Si)、K6(Al4FeSi)等の含鉄金属間化合物であるとされています。
Fe含有量が、ADC12材の場合、1.1%を超えると発生しやすいです。
これらの金属間化合物の硬さはHv500~1000の範囲に入り、鋳物の中で硬い鋳物として認められます。
SEM BEI像でAlよりやや白っぽく見えます。
【発生原因③】合金成分の偏析
偏析とは、合金成分が高速圧入と急冷により分離し、偏析して部分的に組織が硬くなったもの。
その硬さは正常組織に比較して数10%高いものが多く、精密加工の場合問題となります。
ハードスポットの対策
(1)溶湯の酸化物の対処法
(ⅰ)通称”おばけ”の除去
最近の溶湯は湯温の安定性、省エネの観点から保持炉として電気炉を使用する場合が多く、熱源が炉の上部についているため、湯表面はかなりの高温にさらされます。
また、湯の使用・補給により湯面が常に上下しているため、一度炉壁に湯が残留するとこれが核となって酸化物が固まり(通称”おばけ”)ができます。
これが、鋳込まれると確実にハードスポットになるため、週1回は必ずこれを除去することが重要になります。
(ⅱ)溶湯のろ過
ホットチャージ方式の場合、溶解炉中に湯表面にできた酸化物を保持炉への搬入を防ぐため、ガラスウール等で出湯の際にこれをろ過します。
保持炉中でも、ろ過可能であればベスト!
(ⅲ)酸化物の鋳込み防止
コールドチャンバー方式の場合、湯表面の炉壁部分には酸化物が発生しやすいので、この部分の湯を鋳込まないようにする。
また、炉壁の材料は鋳造中絶対に削り落とさないことが大切です。
(ⅳ)電気炉の場合の炉底堆積物除去
電気炉の場合、炉底には酸化物の沈殿したもの、及び、Fe分の高い材料で固まりができる。
これを除去しましょう。
(2)金属間化合物の対処法
金属間化合物がよく発生するのは保持炉にFeるつぼを用いている場合です。
保持炉からFe分が溶解することが諸悪の根源のため、対策としては、保持炉のライニング処理をまめに行うのが良いです。
最低1回/3日くらいの頻度が必要でしょう。
なお、金属間化合物ハードスポットの前兆として、ミクロ組織上ではFe系針状化合物が多発するので、これを1つの目安として対策するのが良いと思います。
(3)合金成分の偏析の対処法
現在の材料組成では含有成分が多く範囲が広いため、ある意味ではこのハードスポットの対策が一番大変です。
対策を行うとすれば、結晶を微細化する成分…例えば、Ca、Na、Mgなどを除去することが望ましいです。
まとめ
ハードスポットの対策を行った、と言ってもその効果は即座に現れるものではありません…。
その意味では、正体の把握しずらい不良対策です。
日常の地道な管理で対策は必ず取れると考えるので、なげやりにならず管理していきましょう。
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